『深く、速く、考える。』読書レビュー 129冊目:ビジネスNo.88

『深く、速く、考える。』
著:稲垣公夫


こんにちは、読書好きのmasamariです。

今回は、稲垣公夫さんの『深く、速く、考える。』をご紹介します。


◾️深い思考を要する「A3報告書」

著者自身、アメリカにおけるトヨタ研究の重要拠点のひとつ、ミシガン大学で学んだ。
その関係で、トヨタ研究の大家であるジェフリー・ライカー教授と知遇を得ることになり、同教授らによる『ザ・トヨタウェイ』などの翻訳を手がけている。

また、トヨタの製品開発をベースに、同じくミシガン大学の助教授だったアレン・ウォード氏が体系化した「リーン製品開発」と呼ばれる手法を逆輸入し、日本企業に普及させようと、主に製造業を中心としたコンサルティング活動を行ってきた。
そうした場で初めて「思考力」を高めることの重要性に気づいた。

トヨタの社内には、独特なツールが数多くある。
その代表格ともいえるのが、さまざまな報告や企画をA3サイズの資料1枚にまとめる「A3報告書」
ムダな記述を極限までそぎ落として本質を明らかにし、革新的なアイデアをシナリオ化するこのツールは、その分、作成にも深い思考を要する。
しかし、トヨタはこのツールを仕事の中心に据えることで、社内の問題解決力やナレッジマネジメント力を飛躍的に高めることに成功している。
また同時にトヨタ社員は、こうした資料作成術を入社1年目から叩き込まれ、実践を繰り返すことで、思考力を徹底的に鍛えられるのである。

A3報告書の威力は絶大で、リーン製品開発を企業に導入する上では必須のツールでもある。
一方で、日常的に深く思考する訓練を受けていない非トヨタ社員にとっては、ハードルが高いのも確かだ。
実際、筆者のどのクライアント企業でも、A3報告書の研修を行うと、教えてすぐに描けるような思考力を備えたエンジニアは1割ぐらいしかいない。

こうした難しい手法やしくみを効果的に導入するためには、社員の思考回路を変える必要がある。
そこでクライアント企業のうちの4社で、合計60名近くの製品開発エンジニアを対象に、思考力を高める方法として「深速思考」を教える研修を始めた。

次にはその全体像をまとめました。
核のひとつは、ものごとの因果関係を図にした「因果関係マップ」を描くこと。
A4の紙1枚ほどの情報を読み、その内容をいくつかの塊に分解して、「何を言っているか」を理解し(抽象化)、塊同士のつながり(因果関係)を見出して図にするというものである。
直観的に浮かんだ答えに飛びつくのではなく、状況を傍職して素早く因果関係をまとめることを繰り返し、深い思考をハイスピードで行う能力を身につけていく。



また、実際の仕事の中では、自分が抱える問題の本質をいきなり抽象化するのではなく、現実とのつながりを保ったまま抽象度を上げていく「抽象化思考」や、問題を解決するために、自分のフィールドとは遠く離れた分野から解決のアイデアを借りてくる「アナロジー思考」といった本書で紹介されている他の思考ツールも、問題解決や発想に役立つ。


◾️「理解する」とはどういうことか?

脳に関して最近わかった、重要なことは"理解する"とはどういうことかという点。
結論からいえば"理解する"とは、新しいことがらを、自分がすでに知っていることがらと結びつけることである。
逆に、「未知のことを既知のことと結びつけるのは、脳にとって理解しやすいやり方であり、人間の認知上のクセである」ともいえるだろう。
「新しいことを、すでになじみの深いことに結びつけて理解する」と言うと、ちょっと難しく感じるかもしれないが、要は「たとえ話(アナロジー)」で理解するのと同じことである。
これは、すべての言語で、抽象的なことを「具体的なことのアナロジー」で表現することからもわかる。

たとえば「梯子をはずされる」という慣用句。
これは、「何かをやるように仕向けられたが、状況が悪くなるとサポートされなくなった」といった抽象的な状況を、「梯子で屋根の上に上がったら梯子をはずされてしまい、下に降りられなくなった」という、より具体的な状況で例えている。
このように、すべての言語において、抽象的な概念を表す言葉は、より具体的な言葉のアナロジーでつくられる。

また、ひと口に「理解する」と言っても、理解が深いこともあれば浅い場合もある。
こうした「理解の度合い」の差はどこから生まれるのか。
具体的には、新しいことを、すでに知っている多くのことと結びつけられれば「深い理解」になる。
逆に、少ないこととしか結びつけられなければ「浅い理解」に留まる。



ひとつ例を考えてみる。
中学校の理科で習った「オームの法則」を式にすると、「電流=電圧/抵抗」となるが、文系の人の中には、こう書いただけで「あぁ、なんか面倒な話になってきたな」と思う人もいるかもしれない。

この式を単に丸暗記するだけだと、確かに「浅い理解」になってしまう。
こうした場合、頭の中で数式だけが孤立していて、他のことがらと結びついてはいない。
確かにこれを丸暗記すれば、試験ではマルをもらえるのかも知れないが、仮に間違って「電圧=電流/抵抗」と覚えてしまうと、答えも完全に間違ったものが出てしまう。

そこで、この電気に関する現象を「タンクにホースをつないで庭に水をまく」という日常体験に例えてーつまりアナロジーで考えてみる。

この例では、電流・電圧・抵抗は、それぞれ、


・電流=単位時間あたりにホースから流れ出る水の量
・電圧=水の圧力(水タンク内の水位とホースの出口の高さの差に比例)
・抵抗=ホースの流れにくさ(細いほど抵抗が大きい)


に対応する。
そうすると、タンクを高い位置に置いて、水圧が高くなるほど(つまり電圧が高いほど)、水が多く流れる(電流が多く流れる)。
またホースを太くするほど(抵抗を低くするほど)水が多く流れるということがわかる。



これまでの生活の中で、ホースで水まきをしたときの記憶のように、「自分の体験を通じて知っていること」に対応させて電気を理解する方が、より深い理解になる。
より身近なものに置き換えることで、目に見えない、抽象的で得体の知れない「電気」を、しっかり理解できるのである。
このように、ものごとを深く理解するには、頭の中のたくさんの知識と結びつける必要がある。

もうひとつ、深い理解とはどういうものなのか、歴史を例に考えてみる。
歴史を浅くしか理解していないとは、例えば「何年に誰が何をした」という歴史的事実だけを知っている場合を指す。
これに対して歴史を深く理解しているとは、歴史的事件の間のつながり(因果関係)、歴史以外の要素(経済・軍事・技術・地形・気候の変化など)とのつながりも知っているということである。
つまり、知識や理解が深ければ深いほど、たくさんの事柄がつながって記憶されているといえる。

浅い知識はいわば「点の知識」であり、深い知識は「面の知識」だが、後者の方が記憶が確かで、しかも応用が利く。
知識と知識のつながりの多くは、「因果関係」だ。
因果関係を知りたがること、つまり「なぜ」と問い続けることは、人間の脳の基本機能として組み込まれている。
小さな子が親に、しつこいほど「なんで?」と問い続けるのは、ごく自然なことなのである。

幼児が新しいことがらに出合ったとき、それを深く理解するとは、対象を観察して、聴いて、匂いをかいで、触って、動かしてみて、過去の経験から得られた知識と関連づけるということ。
これに対して浅い理解とは、「こうすればこうなる」といった単純な因果関係だけを記憶することを意味する。
浅い知識は狭い状況でしか使えない。

こう考えると、深く理解するためには、たくさんの個別的な知識を記憶することより、それらの知識をネットワークのようにつなげるほうが重要だということがわかる。
つながりが多いほど理解は深くなり、深い思考が可能になる。

知識が深ければ深いほど、たくさんのことがらがつながって記憶されている。


◾️おわりに

今持っている知識も、ほとんどが理解しているようで理解しきれていない「浅い知識」なのかもしれません。
「浅い知識」のままで終わらせないように、「なぜ?」を繰り返していき、「深い知識」に変えていきたいですね。
深く考える力をつけたいという方は、是非読んでみてください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください