『未来に先回りする思考法』読書レビュー 136冊目:ビジネスNo.95
『未来に先回りする思考法』
著:佐藤航陽
こんにちは、読書好きのmasamariです。
今回は、佐藤航陽さんの『未来に先回りする思考法』をご紹介します。
◾️テクノロジーは「天才」を量産可能にする
「人工知能が人間の機能の一部を代替する」
こうした議論において必ず出てくるのが「人間の感情の部分は数値化できない」という主張である。
しかし、近年のテクノロジーの進化は、人間の感情の部分ですら、一気に解析を進めつつある。
人の感情を動かすことが重視されるコンテンツ制作の分野でも、その影響はすでに現れ始めている。
これまで映画やマンガやゲームなどのエンターテインメント産業では、一部の天才クリエイターのひらめきに依存してヒットをつくってきた。
しかし、インターネットとそこから発生する膨大なユーザーのデータは、従来と真逆のアプローチを可能にしつつある。
テレビゲームの時代は、テレビに家庭用ゲーム機をつないでプレイするのが一般的だった。
しかし、テレビにつながれているだけではどれだけ多くのユーザーがプレイしても、どこをおもしろいと感じて、どこをつまらないと感じているかのフィードバックを吸い上げることはできない。
フィードバックを得る手段はせいぜい、発売前にテストプレイで何度も遊んでもらい、感触が良さそうかどうかを確かめるくらいだ。
出たとこ勝負で売上がわかる、ハイリスクなビジネスだった。
一方、通信型のゲームでは、インターネットを通じてユーザーの情報を吸い上げられるため、「おもしろい」「つまらない」などの「感情」を、科学的に分析することが可能になった。
多数のユーザーが競争したり協力したりしながら進行するタイプのゲームは、ユーザーがどの場面でゲームをやめてしまい、どのような場面で最も白熱するかのデータが、ログとして蓄積されていく。
これらのデータより見えてくるパターンから、発売後もリアルタイムでシナリオに変更を加え、ユーザーを飽きさせないように改善していくことが可能になった。
つまり、パッケージとして販売されるソフトと違い、これらのゲームに完成形はない。
そのかわり、誰も遊ぷ人がいなくなるとその時点でゲームは「終了」になる。
ネットは、ゲーム制作のルールそのものをまったく書き換えてしまった。
まったく同じことはゲームだけではなく、映画やマンガなどの世界においても適用できる。
日本でもDeNA社が提供するマンガボックスなど、無料マンガアプリが急速に普及しつつある。
マンガ家は自分の作品のどの部分がユーザーに最も刺さっているかをデータとして分析することが可能になり、そのパターンはすべて蓄積されていく。
将来的にはデータからユーザーの属性を分析し、それぞれに適した違う結末が用意されているマンガだって成立するかもしれない。
すでにディズニーでは、ユーザーの「感動のパターン」がノウハウとして蓄積されており、そのフレームワークに沿って映画が作られているという話を、エンターテインメント業界に勤める方から著者は聞いたことがある。
実際、少年誌の人気マンガの登場キャラクターやストーリー展開が驚くほど似ていると感じた方は少なくない。
今後はこうした形式知がデータという形でより一般化していくことが予想される。
こういったある種の「勝ちパターン」は、その業界でも限られた人たちだけが知っている、いわば「秘伝のソース」のようなものだった。
誰にでも習得できるようなものではないからこそ、天才が存在したのである。
しかし、データが人の「感情」すらパターンとして認識するようになると、誰でもそのパターンにアクセスすることが可能になり、天才の希少性は失われる。
逆に、今まで王道だと思われていた手法が、データから分析してみると実は間違っていたという場面にも出くわすだろう。
「楽しい」「おもしろい」「悲しい」などの感情は、これまで、複雑で理解しがたい、ブラックボックスとして扱われていた。
これからコンテンツがデジタル化され、読者の傾向がデータとして可視化できるようになると、感情は分析可能なものへと変わっていく。
業界全体でも、一部の天才クリエイターに依存した産業から、科学的に紐解くことが可能な再現性の高い産業に変わっていくことが予想される。
まるで、「秘伝のソース」の成分が解析され、量産されるように。
「感情」という最も数値化しづらいと思われている分野すら、テクノロジーはロジックを構築しはじめているのである。
◾️入間はパターンの塊
著者の経営する会社では、人工知能を活用して、様々なアプリのデータからユーザーの行動パターンを見つけ出し、アプリ開発者が次にどんな施策を打つべきかを提案するシステムを世界中で提供している。
例えば「ゲームでこのパターンの動きを示し始めたユーザーは、もうやめる可能性が高い」という分析から「別のアプリの広告を見せるべき」という施策を提示したりする。
事業の核となるのはスマホ上に配信される広告効果の最大化。
通常、ネット上で広告を配信する場合は、複数のデザインを同時に配信して、効果を見ながら、調整をかけていく。
よくクリックはされるが成約までつながらないもの、クリック率は低いが成約率は高いものなど、その広告がいかにユーザーに認識されているかは、データを見れば瞬時にわかる。
また、どんな人に広告を見せるかというターゲットの属性まで指定することが可能なので、それらの複数の評価軸を組み合わせれば、どうすれば広告投資額に対するリターンを最大化できるのかが分析できる。
このデータ分析を世界中で行うということは、何千万人、ときには何億人のユーザーの行動を日常的に扱うことを意味する。
そしてそのデータから得られる結論は、著者の人間に対する認識を覆すものだった。
普段、様々な人々と会って話をしていると、性格も趣味も外見的な特徴も、多様性にあふれている。
まさに「十人十色」である。
しかし、何千万人におよぶユーザーを「まったく同じ条件下でどんな反応をみせるか」という観点で分析してみると、使用している言語や属している文化がまったく異なるにも関わらず、ヘビーユーザーや離脱するユーザーのパターンはほとんど同じだったりする。
また、一見属性がまったく異なる人々も、様々な行動を分析していけば、かなり限られたパターンに分類することが可能になることがわかっている。
人間の目で見るとなんの共通点もない事象も、データという形で分析してみると驚くほどシンプルな法則性に基づいている。
人間は、思っている以上にパターンの塊なのである。
◾️おわりに
人の感情まで数値化できるまで技術が進歩しているとは驚きました。
その他にも『0.1%の人は「世界が変化するパターン」を見抜いている』という話があり、未来に先回りするための思考法が紹介されています。
気になる方は読んでみてください。