『戦略読書日記』読書レビュー 157冊目:自己啓発No.40
『戦略読書日記』
著:楠木建
こんにちは、読書好きのmasamariです。
今回は、楠木建さんの『戦略読書日記』をご紹介します。
◾️疑似でもいいから場数を踏む
スキルと違って、センスは直接的には育てられない。
しかし、育つ。
定型的な教科書がなくても、仕事の中で磨くことはできる。
自らセンスを磨くにはどうしたらよいのか。
もっとも有効なのは、実際に経営者として戦略をつくって動かすという経験をすること。
要は場数を踏むことだ。
モテるようになるためにはデートの場数を踏むに越したことはないのと同じである。
理屈っぽく言えば、センスとは「文脈に埋め込まれた、その人に固有の因果論理の総体」を意味している。
平たく言えば、「引き出しの多さ」。
優れた経営者はあらゆる文脈に対応した因果のロジックの引き出しを持っている。
しかもいつ、どの引き出しを開けて、どのロジックを使うかという判断が的確、これもまたセンスである。
経験の量と質、幅と深さが「引き出し能力」を形成する。
戦略ストーリーをつくるのは経営者の仕事であり、経営そのものだ。
自分で戦略を作って、自分で動かして、成功したり、失敗したりを繰り返していくなかでセンスが磨かれる。
しかし、誰もがそんな経験ができるわけではない。
そこで、次善の策として疑似体験が大切になる。
「疑似場数」といってもよい。
疑似場数を踏むための方法にも様々なものがある。
より本番に近い疑似場数は、センスのいい人の隣にいて、その人の一挙手一投足を観察すること。
シャドーイング(shadowing)ともいう。
昔からある「鞄持ち」の方法論である。
著者自身の経験で言えば、センスに優れた経営者として真っ先に浮かぶのが、数年前に若くしてお亡くなりになった佐々木力さん(生前はリンク・セオリー・ホールディングス社長)。
佐々木さんのセンスのよさを説明しろと言われても一言では言えないが、機会あるたびに横で見ていると、「なるほど、センスがいいとはこういうことか……」と気づかされること多々であった。
誰でもいいので、まずは自分の周囲の人でセンスがよさそうな人をよく見る。
そして見破る。
「見破る」というのは、その背後にある論理をつかむということである。
センスのいい人をただ漫然と観察したり真似するのではなく、なぜその人はその時にそうするのか、「なぜ」をいちいち考える。
これを繰り返すうちに、自分と比較してどう違うのか、自分だったらどうするか、と考えるようになる。
自分との相対化が起こる。
そうして自分の潜在的なセンスに気づき、センス磨きが始まる。
疑似場数を踏むとはそういうことだ。
センスのいい人のそばにいながら何年たっても進歩しない人というのは、人を見るだけで終わっていて、見破るところまでいかない。
見破らなければ相対化できない。
自分と相対化することで初めて自分に固有のセンスが磨かれる。
といっても、センスのいい人がそう都合よく自分のそばにいてくれるわけではないし、鞄持ちをできたとしても見る対象がごく少数に限定されてしまう。
もう一段さらに疑似的ではあるが、もっと日常的に手軽にできる方法があったほうがよい。
それが読書である。
戦略のセンスを錬成する手段として、なぜ読書が優れているのか。
情報源として本が優れているということではない。
情報があらゆるメディアから送り出されてくる。
しかしそうした情報の99%は「断片」にすぎない。
繰り返すが、センスとは因果論理の引き出しの豊かさである。
断片をいくら詰め込んでも肝心の論理は身につかない。
例えば新聞やネットで「中国で景気が頭打ちに……」という記事を読んだとする。
これは事実であるとしても、情報の断片である。
そこには一応景気が頭打ちになった理由めいたものが箇条書きで触れられている。
しかしその背後にある因果論理までは短い記事では踏み込めない。
論理を考える材料として物足りない。
深みと奥行きに欠けるのである。
論理を獲得するための深みとか奥行きは「文脈」(の豊かさ)にかかっている。
経営の論理は文脈のなかでしか理解できない。
情報の断片を前後左右に広がる文脈の中に置いて、初めて因果のロジックが見えてくる。
紙に印刷されたものでも電子書籍でもよい。
あるテーマについてのまとまった記述がしてあるものを 「本」と呼ぶならば、読書の強みは文脈の豊かさにある。
空間的、時間的文脈を広げて因果論理を考える材料として、読書は依然として最強の思考装置だ。
あくまでも一般論ではあるが、戦略のセンスをつけるための読書としては、フィクションよりもノンフィクションが向いている。
具体的な事実のほうがロジックが強いからである。
フィクションだとロジックは作家のつくりたい放題なので、どうしても論理が緩くなる。
◾️おわりに
本書では、物事の本質を抉り出すような本、著者の思考に大きな影響を与えた本を21冊に厳選し、それらとの対話を通じて著者が受けた衝撃や知的興奮、発見や洞察について紹介されています。
気になる方や読書好きな方は、是非読んでみてください。